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イタリア ボローニャ便り 11便 
   セコンドピアット ガリポリのズッパ・ディ・ペッシェ 2部 

 

 
 

 どこの海辺国にも余った魚(あくまでも活きの良い余り物、俗にアラと呼ばれるもの)
 を煮込む料理はあると思います。南フランスでは、似たものをブイアベースと呼びます。
 カリブ海沿岸では、強烈な辛さの熱々スープを食べました。赤道近くの強烈な太陽に焼か
 れた体には、心地いい刺激でした。これもやはりズッパ・デ・ペシュと呼んでいました。
 世界に冠たる三原近辺では、「煮しめ」とだけ呼ばれていたと思います。
 もちろん、残り物の魚と季節の野菜で醤油味です。子どもの頃は、飽きる程食べさせ
 られた思い出があります。
 こちらでは醤油の代わりにトマトとオリーブオイル、それと香辛料です。

 

 それと対比したいのが今回のメニュー、ズッパ・ディ・ペシェ。トスカーナ州の海岸線。
 ピサ辺りではカチュッコと呼び名が変わります。今回登場するのは、南イタリアプーリア
 州のガリポリ。残り物の魚に慣れ親しんでいる私をうならせたこの逸品です。
 それは、84年の復活祭の休暇に出掛けた南イタリアスケッチ旅行。
 気まぐれで途中下車した海辺の町ガリポリ。

 

 久々の潮の香りを吸い込み、直感で入り込んだ港のトラトリアで、5,6品しか無い
 メニューから、 主人から勧められたズッパ・ディ・ペッシェ。
 通りの入口から2,3段降りた薄暗い土間の当たりから、港の匂いと相まって漂う
 とろりとした空気。丈夫一式の手垢のしみ込んだ黒光りしたテーブル。
 アドリア海の外光に反射する白い家並からやっと視覚が元に戻り、暗がりの食堂の
 風景をじっくり眺めていると、地酒の白ワインの頭越しに、大人の手のひら大の
 耐熱土鍋に盛られた料理が、地元で焼いたパン、パーネプリエーゼと一緒に運ばれて
 きました。

 

 南イタリア特産、極小の完熟トマトから作った、スープの波打ち際。
 芳香な湯気の向こうに浮んでいるのが鰻のおかしら。 イタリアでも鰻は食べます。
 しかしアタマは食べません。潮の香りと、部屋に漂う空気の匂い。
 そして、魚のお頭からくる視覚的な刺激は、遠い過去の記憶を解き放してくれました。
 何とも説明できない恍惚とした快感です。遠い昔の煮しめの記憶が蘇ってきました。
 私は「失われた時」を取り戻す事ができたのです。

 

 これには、子どもの時分を思い出し合掌。ブォナペティートと呟いてしまいました。
 ちなみにこの言葉は、「いただきます」を指しますが、キリスト教者は胸に十字を
 切って創造主に対してお祈りをします。「快食イタシマショウ」くらいの軽さです。


 追記
 私の所見では、魚も肉と同じで骨の近くにある身が一番美味しい部分と思われます。
 肉、魚どちらも精通されておられる皆さんには、甚だ蛇足の感はあります。
 魚を主要なタンパク源としてきた民族は、太古から承知していたと思います。